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終活の契約、何があるの?任意後見、死後事務、財産管理...違いと検討ポイント

Tags: 終活, 契約, 任意後見, 死後事務委任契約, 財産管理委任契約

親御様の終活を進める中で、「もしもの時に備えて何か契約が必要らしい」と耳にすることがあるかもしれません。任意後見契約や死後事務委任契約、財産管理委任契約など、様々な名前が出てきて、どれがどんな役割なのか、自分たちには何が必要なのか、分かりにくいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

このページでは、終活で検討されることの多い代表的な契約について、それぞれの目的や内容、そしてどのような点が違うのかを分かりやすくご説明します。親御様の「もしも」に備えるための契約について理解を深め、ご家族で話し合うきっかけとしていただければ幸いです。

なぜ終活で「契約」が必要になるのか

私たちは、自分自身の財産を管理したり、医療や介護に関する手続きをしたり、各種の手続きを行ったりすることができます。これは、私たちが自身の判断に基づいて行動できるためです。

しかし、病気やケガ、認知症などで判断能力が低下したり、あるいは亡くなったりした後は、ご本人がこれらの手続きを行うことが難しくなります。ご家族が代わりに手続きをしようとしても、法的に権限がないためにスムーズに進められない場合があります。例えば、親御様の銀行口座からお金を引き出そうとしても、判断能力が低下している場合や亡くなった後では、原則として口座が凍結され、ご家族でも自由にお金を引き出せなくなることがあります。

このような状況に備え、ご自身の意思能力があるうちに、将来のことや亡くなった後の事務処理について、信頼できる人に「お願いする」という意思表示を確実なものとするために、「契約」という形式が用いられるのです。契約によって、将来の不安を解消し、ご家族の負担を軽減することを目指します。

終活で検討される主な契約の種類

終活で検討されることの多い代表的な契約には、主に以下の3つがあります。

  1. 任意後見契約(将来の財産管理や身上監護に関する契約)
  2. 財産管理委任契約(現在の財産管理に関する契約)
  3. 死後事務委任契約(亡くなった後の事務に関する契約)

それぞれの契約について、その役割と特徴を見ていきましょう。

任意後見契約とは

【どんな時に役立つか】 ご本人の判断能力が不十分になった場合に備える契約です。「今は元気だけれど、将来認知症などで自分のことができなくなるのが不安」という場合に、あらかじめご本人が信頼できる人(任意後見人となる人)を選んで、代わりにしてもらいたいこと(財産管理や生活、医療、介護に関する手続きなど)を契約で定めておくものです。

【契約のポイント】 * 契約の開始時期: ご本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから効力が生じます。 * 対象となる事務: 財産の管理(預貯金の管理、公共料金の支払いなど)や、生活、医療、介護に関する手続き(施設入居の契約、病院の費用の支払いなど)が主な内容となります。 * 誰が引き受けるか: ご本人が信頼できる人であれば、親族でなくても、専門家(弁護士、司法書士など)に依頼することも可能です。 * 手続き: 公正証書を作成して契約します。効力発生時には家庭裁判所への申立てが必要です。

ご自身の判断能力が低下した後に、誰に何を任せるかを、ご自身の意思で決められる点が最大のメリットです。

財産管理委任契約とは

【どんな時に役立つか】 ご本人の判断能力がまだ十分なうちに、現在の財産管理などを誰かに任せたい場合に結ぶ契約です。「高齢で金融機関に行くのが大変」「入院中で支払い手続きが難しい」など、今は判断能力はあるけれど、身体的な理由などでご自身での管理が難しくなった場合に利用されます。

【契約のポイント】 * 契約の開始時期: 契約を結んだときから効力が生じます。 * 対象となる事務: 預貯金の管理、年金の受領、不動産の管理、公共料金や家賃、医療費などの支払いなど、財産に関する管理行為が主な内容です。生活や医療、介護に関する「契約」を結ぶことなどは含まれないのが一般的です。 * 誰が引き受けるか: ご本人が信頼できる人であれば、親族でも専門家でも依頼できます。 * 手続き: 必ずしも公正証書である必要はありませんが、内容を明確にし、後々のトラブルを防ぐためには公正証書で作成することが推奨されます。

任意後見契約が「将来判断能力が不十分になった時」に備えるのに対し、財産管理委任契約は「現在の」財産管理を任せるための契約です。判断能力が低下した場合は、任意後見契約(または法定後見制度)への移行を検討することになります。

死後事務委任契約とは

【どんな時に役立つか】 ご本人が亡くなった後の様々な事務手続きを、あらかじめ指定した人に任せる契約です。「身寄りがいない」「家族に負担をかけたくない」といった場合に、葬儀や納骨、行政手続き、家賃の精算などを円滑に進めるために利用されます。

【契約のポイント】 * 契約の開始時期: ご本人が亡くなったときに効力が生じます。 * 対象となる事務: 葬儀・埋葬に関する手続き、行政への届出(死亡届など)、医療費や施設利用料などの支払い、遺品整理、公共料金や家賃の清算、ペットの新しい飼い主探しなど、亡くなった後に発生する様々な事務手続きを幅広く委任できます。遺産分割そのもの(相続人が行う手続き)は含まれません。 * 誰が引き受けるか: ご本人が信頼できる人であれば、親族でなくても、専門家(司法書士、行政書士など)や法人に依頼することも可能です。 * 手続き: 内容を明確にするため、公正証書で作成することが一般的です。

ご自身の最後の意思を反映させ、残されたご家族が手続きで困ることがないようにするための契約です。

3つの契約の違いと選び方

それぞれの契約の目的と開始時期、対象となる事務を比較してみましょう。

| 契約の種類 | 目的・役割 | 契約の開始時期 | 主な対象となる事務 | | :----------------- | :--------------------------------------- | :----------------------------- | :----------------------------------------------------- | | 任意後見契約 | 将来の判断能力低下に備え、財産管理や生活・医療等の手続きを任せる | 判断能力低下後、家庭裁判所の選任が必要 | 財産管理、生活・医療・介護に関する手続き | | 財産管理委任契約 | 現在の財産管理などを任せる | 契約締結後すぐに効力発生 | 現在の財産管理(支払い、受領など) | | 死後事務委任契約 | 亡くなった後の様々な事務手続きを任せる | ご本人が亡くなったとき | 葬儀・埋葬、行政手続き、各種清算、遺品整理、ペットなど |

これらの契約は、一つの目的のためだけに結ぶものではなく、組み合わせて利用することも可能です。例えば、

など、親御様の現在の状況や将来の希望、ご家族の状況に合わせて、どの契約が必要か、あるいは複数の契約を組み合わせるかを検討することが大切です。

家族で話し合うためのポイント

これらの契約を検討する上で、ご家族で話し合うことが非常に重要です。

これらの契約は、親御様ご自身の意思に基づいて結ばれるものです。ご家族は、親御様の意思を尊重しつつ、選択肢を分かりやすく伝え、一緒に考えるという姿勢が大切です。

どこに相談すれば良いか

これらの契約について、より具体的に検討したり、手続きを進めたりするためには、専門家の知識が必要になります。

どの専門家も終活に関する様々な相談に応じています。ご自身の状況に合わせて、まずは無料相談などを利用して、いくつかの専門家に話を聞いてみるのも良いでしょう。

まとめ

終活における契約は、親御様の「もしも」に備え、ご自身の意思を尊重しつつ、残されたご家族の負担を減らすための重要な準備の一つです。任意後見契約、財産管理委任契約、死後事務委任契約は、それぞれ目的や効力が生じるタイミング、対象となる事務が異なります。

これらの契約を理解し、親御様の現在の状況や将来への希望、そしてご家族の状況を踏まえて、どの契約が必要かを考えていくことが大切です。すぐに結論が出なくても構いません。まずは「こんな契約があるんだね」と話題にし、少しずつ理解を深めていくことから始めてみてはいかがでしょうか。

ご家族だけで判断が難しい場合は、専門家の意見を聞くことも有効です。このページが、親御様とご家族が安心して終活を進めるための一助となれば幸いです。