親の終活で考える任意後見契約とは?将来の安心のために家族が知っておくべきこと
親御さんの終活について考え始めたとき、様々な手続きや準備があることに気づかれるかと思います。その中でも、「もしも」の時に備えるための選択肢の一つとして、「任意後見契約」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。
聞き慣れない言葉に、少し難しそう、自分たちには関係ないのでは、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、任意後見契約は、親御さんご自身の意思を大切にしながら、将来の財産管理や身上監護を任せる相手をあらかじめ決めておくことができる大切な仕組みです。これは、ご家族が親御さんをサポートする上で知っておくと、いざという時の不安を減らし、スムーズな対応につながります。
この記事では、任意後見契約とはどのようなものか、なぜ終活の際に検討されるのか、そしてご家族が知っておくべき基本的なことについて、分かりやすくご説明します。
任意後見契約とは
任意後見契約とは、ご本人が十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、ご自身の生活や財産に関する事務を、誰にどのように代わりに行ってもらうか(これを「任意後見人」といいます)を、あらかじめ契約で決めておく制度です。
この契約は、ご本人が選んだ相手(任意後見人)との間で結ばれます。契約の内容(どのようなことを任せるか)も、ご本人の意思に基づいて自由に決めることができます。例えば、預貯金の管理、不動産の管理・売却、介護サービスや医療に関する契約、公共料金の支払いなど、生活全般に関わる様々な事務を任せることができます。
なぜ終活で任意後見契約が検討されるのか
終活は、ご自身の人生の終わりに向けて、身辺整理や将来の準備を進める活動です。その中で、ご自身の財産や生活をどのように管理・維持していくか、という課題が出てきます。特に、将来、病気や認知症などで判断能力が衰えてしまった場合に、ご自身の希望通りの生活を維持し、大切な財産を守るためには、誰かに代わってこれらの事務を行ってもらう必要が出てきます。
任意後見契約は、この「もしも」の時に備え、ご本人の意思が明確なうちに、将来の支援者と支援内容を決めておける点が大きな特徴です。
- ご本人の希望を反映できる: 誰に任せるか、何を任せるかを自分で決められます。信頼できる家族や親戚、専門家などを任意後見人として選べます。
- 将来の安心につながる: 将来判断能力が不十分になった際も、あらかじめ定めた任意後見人が契約に基づいて支援してくれるため、ご本人もご家族も安心できます。
- ご家族の負担を減らせる可能性: 適切な任意後見契約を結んでおくことで、いざという時にご家族が手続きに戸惑ったり、どのように対応すべきか悩んだりする負担を減らすことができます。
このように、任意後見契約は、単なる手続きではなく、親御さんご自身の「将来を安心して過ごしたい」という願いを叶え、それを支えるご家族の安心にもつながる、終活における重要な選択肢の一つと言えるでしょう。
法定後見制度との違い
任意後見契約と似た制度に「法定後見制度」があります。これは、既に判断能力が不十分になった方が利用する制度で、家庭裁判所によって成年後見人などが選ばれます。
任意後見契約と法定後見制度の主な違いは以下の通りです。
| 項目 | 任意後見契約 | 法定後見制度 | | :------------- | :----------------------------------------- | :--------------------------------------------- | | 利用開始時期 | 本人の判断能力が十分なうちに契約を締結 | 本人の判断能力が不十分になった後で申立てを行う | | 後見人等 | 本人が自分で選ぶ | 家庭裁判所が選任する | | 契約内容 | 本人の意思で自由に決める | 法令で定められた範囲 | | 監督 | 契約発効後は家庭裁判所が選任する任意後見監督人が監督 | 家庭裁判所が監督 |
任意後見契約は、ご本人の判断能力が十分な「今」だからこそできる、将来への備えです。一方、法定後見制度は、判断能力が低下してしまった「後」に、ご本人を保護するための制度です。終活の視点からは、ご自身の意思を最大限に尊重できる任意後見契約が有力な選択肢となります。
任意後見契約を検討する際に家族が知っておきたいこと
親御さんが任意後見契約を検討される際、ご家族はどのようなことを知っておくと良いでしょうか。
- 契約の主体はあくまで親御さん: 任意後見契約は、親御さんご自身の意思に基づいて結ばれるものです。ご家族は、親御さんの意思決定を尊重し、サポートする立場であることを理解しましょう。
- 契約には公正証書が必要: 任意後見契約は、必ず公正証書によって作成されます。公証役場で、公証人の立ち合いのもと、契約内容を確認して作成する必要があります。この手続きには、親御さんと任意後見人になる方が公証役場に行く必要があります。
- 任意後見人になる人: 親御さんが信頼できる人であれば、ご家族、友人、専門家(弁護士、司法書士、社会福祉士など)誰でも任意後見人になることができます(ただし、一定の欠格事由があります)。ご家族が任意後見人になることも可能ですが、負担や他の家族との関係性なども考慮して慎重に検討する必要があります。専門家にお願いすることも選択肢の一つです。
- 契約の開始は家庭裁判所の手続き後: 任意後見契約を結んだだけでは効力は発生しません。親御さんの判断能力が不十分になった後、任意後見人等や親族などが家庭裁判所に「任意後見監督人選任の申立て」を行い、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから契約の効力が生じ、任意後見人の仕事が始まります。
- 任意後見監督人の役割: 任意後見契約が始まった後、家庭裁判所が選任した任意後見監督人が、任意後見人が適切に仕事を行っているかを監督します。これにより、任意後見人による不適切な対応を防ぐ仕組みがあります。
- 費用について: 任意後見契約の作成時には公証役場の手数料がかかります。また、契約が開始して任意後見監督人が選任されると、任意後見人や任意後見監督人への報酬が発生する場合があります(契約内容や家庭裁判所の判断によります)。これらの費用についても、事前に確認しておくことが大切です。
任意後見契約について話し合うには
親御さんと任意後見契約について話し合う際は、まず「将来、自分自身のことを自分で決められなくなった時に、誰にどのようにして欲しいか」という親御さんの漠然とした希望を聞くことから始めてみてはいかがでしょうか。すぐに「任意後見契約」という言葉を出すのではなく、安心した生活を送るための将来の備えについて、一緒に考える姿勢を示すことが大切です。
ご家族だけで判断するのが難しい場合は、地域の社会福祉協議会や成年後見センター、弁護士、司法書士などの専門家に相談することも有効です。専門家は、制度について詳しく説明してくれたり、親御さんの状況や希望に合ったアドバイスをしてくれたりします。
まとめ
任意後見契約は、親御さんが将来の生活や財産管理について、ご自身の意思で信頼できる相手に任せるための重要な契約です。終活の一環としてこの制度を理解し、親御さんと話し合うことは、将来の不安を減らし、ご家族にとっても大きな安心につながります。
すぐに契約を結ぶとならなくても、まずは「このような仕組みがある」ということを知り、ご家族で話し合いを始めるきっかけとすることが大切です。もし分からないことや不安なことがあれば、一人で悩まず、専門家や信頼できる機関に相談してみることをお勧めします。